2012年1月15日日曜日

大田市場・Mさんの仕事

 


                                 カネを使うには文化がいる


東京・大田市場の仲卸で経営者のMさんはネアカな人柄である。決してハッタリ屋ではない。Mさんはもとは卸売会社にいたので産地情勢にも精通している。しかし伝統を重んじてきた市場のなかにあって、物事にあまり執着をしないのだ。アッケンカランとしている。

Mさんの仕事は見ているとほぼ6割が電話仕事である。生来ネアカなタイプだから首都圏を中心に北海道、大阪、福岡のお得意さんもそういうタイプの人たちが多い。

また取引においては駆け引きをすることを好まない。

時間がもったいないのだ。価格形成においては最初にネタを明確にして、自分の利益分を相手にもはっきりさせて始める。価格のゴマカシはこの業界、回りまわってすぐバレルのだ。

情報源は蜘蛛の巣のごとくあるからだ。二度と遊んで貰えなくなる可能性がある。そちらの損失のほうがデカイのだ。Mさんは身の丈を弁えて人間づきあいを楽しみながら仕事をしている。

たまには取引相手と出た利益をプールして市場の休み前に福岡で札幌で大阪で交流を深めている。

東京ばかりで遊ばない。場所を変える。現地で取引先を交えて遊んだりもする。酒も好きだし好奇心も旺盛だ。たとえばここに何にでも使える50万円があるとすると、仕事仲間の二人、三人で一緒に懇談することに精力的に時間を使う。そうすると文殊の知恵も出てくるのだ。たとえば女性に使うとそれ以上に幅が広がらないし、それで終わりだ。生きたカネが使える人である。休みの時は奥さんと一緒にスーパーに買い物に出かけるのが好きだ。日頃はこうして小売店の売価をまめにチェックしている。

大田市場は青果物では日本最大の取り扱いをする市場だ。

それだけ情報・ヒト・モノ・カネが集まるところだ。今後は市場の淘汰が始まれば、ますます大田市場に情報、ヒト、モノ、カネが集まる事は避けようがない。

大田市場は自然発生的にできたわけではない。旧・神田市場時代から先覚者たちの努力があったわけだ。昭和40年代に他社が八百屋対応だけに固執しているとき、リスクの大きい量販店対応を進めそのノウハウを積み上げてきた。

そういうことをMさんはフルに活用している。「カネを稼ぐには才覚がいる。カネを貯めるには忍耐がいる。カネを使うには文化がいる」という言葉がある。「経済は手段」ということだろう。個人も企業も国も、手段を「目的」にしてはいけない。Mさんはそのことを弁えているようだ。こうして毎年、確実に業績を伸ばしている。

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