2011年5月2日月曜日

世界を動かす匠の技術に学ぶ

                   「下町のエジソン」がコメの三毛作に挑む

ラジオを聴いていたら、岡野工業・岡野雅行社長の弾んだ声が飛び込んで来た。岡野工業は東京・墨田区向島のプレス加工技術で、あの「痛くない注射 針」など独自の製品を開発した会社。岡野社長は匠の技術をもっている。この下町の6人の企業に、世界の大企業やNASAなども注目を しているのである。

岡野社長は金属の「深絞り加工技術」の世界的職人として知られ講演、著書多数で大忙しである。

「深 絞りの技術」は化粧品の壜、万年筆のキャップ、ウォークマンなどに使われた技術で、ミクロン(1000分の1ミリ)の技術だ。痛くない注射針は 医療機器メーカーのテルモが依頼したもの。長さが20ミリ、穴の直径が80ミクロン、外径が200ミクロンと、蚊の針と同じ細さ。糖尿病患者にとても喜ば れた。

岡 野社長は不可能といわれた技術開発に挑んだ男である。理論物理学の泰斗が細すぎるから丸めるのは不可能と断言したがそれを成し遂げたのだ。職人は「人がや らないことに挑戦しなければだめだ」と言う。何でも屋では人に負けない独自の技術開発はできない。他社が出来ない仕事をする。

し かし、特許をとろうという セコイ気持ちはサラサラない。技術を真似するものがいたら、どうぞ真似をしてくれと自信をもっている。大企業が相談にくるが他社で出来ないものなので、価 格は岡野さんが決める。ここがポイントだ。嫌なら他社へどうぞだ。大企業の下請けではない。対等なパートナーだ。もみ手をして仕事をもらわないところが商 人と違うのだ。まさに匠の技術をもった職人なのだ。

大企業のコスト目標、開発予算の中ではチャレンジしろと言われたとし てもそれは無理な話。しかも失敗は許されないとなれば、技術屋はお茶を濁して終 わりだ。無難なものを作ろうとする。その結果、たいしたものは出来ない。デザインが変わったり、ボタンが増えるだけ。そういう企業風土で社長も雇われ社長 だから、命を賭けたチャレンジ精神は育まれない。まして銀行はソロバン勘定だけしかないから、技術開発の頭がない。

バブ ル崩壊で銀行が中小企業に対してとった処置は、あこぎな貸しはがしでしかなかった。税金投入でなんとか救出させられたくせに、ゼロ金利で利益が 出てきたからといって大きな顔をするなといいたい。バンカーたちには教養のかけらもなかった。教養があるとは自分たちのやってきた愚かな行為に対して、少 しは恥じらいを浮かべることが出来るもののことを言うのだ。

サラリーマンは自分の在任期間中に何とか実績を出すことしか 考えないから技術開発などはムリだ。そのくせ手柄だけは自分で吹聴したがる。岡野社長は 失敗したときのリスク覚悟のチャレンジは、オーナー社長にしか決断できないことを弁えているのだ。大企業のウイークポイントを見事に押さえている。

私 はそうした意味で前回、仲卸で『西洋野菜の草分け築地DAIYU』と大田市場の『有機野菜に賭けた角市』を取り上げた。むろん岡野工業ほどの匠の 技術があるわけではないが、西洋野菜、有機野菜に関しては全国の仲卸の誰にも負けないというプロ意識を持った人たちであった。ただスーパーの下請けの仕事 で、商いが大きいだけでは職人としての意識は育たない。わずか6人の企業でも、岡野工業のような独自の技術で世界を動かすような企業があることも忘れては いけない。

豊田佐吉、松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫あげたらキリがない。みんな町工場から立ち上がっていったのだ。

ところで岡野雅行さんは親父さんの言葉をいまでも家訓として守り続けている。

■国を信用するな■保険には入るな■銀行は信用するな■保証人は引き受けるな■会社は大きくするな■嫌な仕事はするな

岡野工業では土日は休みで残業はしない。金型をつくるシステムプラントを販売している。

最後に岡野社長は面白い指摘をされた。もう技術的にはメタモやバイオ時代は終わっている。そこで米を年3作する3毛作に取り組んでいるということだから、しばらくは成り行きを注目しておこう。


「すばる会員」お申し込みはこちらへ





0 件のコメント:

コメントを投稿